長州奇兵隊 勝者の中の敗者たち

一坂 太郎 著
中公新書

「偽者の歴史」と「本物の歴史」がこの本の貫くテーマである。もちろん、歴史と言うのは主観的なものであり、正しい歴史観などと言うものは本来決められないものかもしれない。しかし、「歴史などは所詮は歴史家に都合のいいように書かれた物語に過ぎない」と突き放すのでは、「本当にあったこと」に近づくのは難しいだろう。例えば、我々が何気なく使っている「志士」という言葉であるが、この言葉は確かに著者の言うように、この言葉はそれ自身、価値判断を含んでいる言葉であり、歴史用語として使うのにはふさわしくないだろう。倒幕側のみが「志士」と呼ばれるが、佐幕側にも志はあったわけであり、勝者のみを志士と呼ぶのは確かにおかしいと思う。

この本には、目からうろこの落ちるようなエピソードが数多く収録されており、著者の真摯な研究態度には感心させられる。