アメリカの地方自治

小滝敏之 著
第一法規
アメリカの地方自治は、日本やヨーロッパと違いきわめて多様性に富んでいる。地方自治のあり方が州ごとによって異なっているばかりでなく、同じ州内でも一様というわけではない。よって、アメリカの地方自治を語る場合に、一つの典型的な州、あるいは、ひとつの典型的な市で語ることは不可能である。

まず、アメリカの地方自治、というよりも、政治そのものを語る場合に不可欠なのが、「州」の存在である。アメリカの州は、日本の県とは全く異なる。日本における県は中央政府が策定した地方自治法によって規定されており、その意味において、日本国政府の創造物に過ぎない。その他の多くの国でも、基本的には日本と同じような単一国家である。しかし、アメリカにおける州はそれぞれが主権をもっており、連邦政府はこれらの州によって作られたものである。よって、アメリカの場合は、初めに州ありきである。そして、州内にある地方自治体は州法によって規定されており、法的には州の創造物である。

州内に作られる地方自治体には、シティー、バラー、カウンティ、ビレッジ、タウンなどがあるが、日本のようにシンプルな2層構造になっているわけではない。

地方自治体の政府形態は、大きく分けて次の3つの種類がある。

1.市長・議会型
これは、市長と議会が存在する一番オーソドックスな方式である。市長は、直接選挙によって選ばれる場合と、議会によって選ばれる場合とがある。また、市長が法案に対する拒否権があったりなかったりなど、様々な方式がある。この方式では、行政府と立法府が分立し、行政府と議会が互いに牽制しあうことになる。

2.理事会型
理事会型では、議会の代わりに数人の理事からなる理事会を設け、この理事会が立法機関の役割を果たすと同時に、各理事が部局の長を兼任し行政機関としての役割も果す。現在、アメリカで理事会型をとる地方自治体は非常に少ない。

3.議会・支配人型
この方式では、議会が行政首長として活動する専門行政官の支配人(シティ・マネージャー)を任命する形態である。支配人は議会にのみ責任を負う。市長とは違い、議会の解散権や法案の拒否権が無い。支配人はあくまで議会から選ばれる専門行政官に過ぎない。この方式は、委員会設置会社における取締役と執行役の分離と同じような方式である。