苔の話 小さな植物の知られざる生態

秋山弘之 著
中公新書

苔はあまり目立たない植物で、人気も無い。花や木、高山植物などは人気もあるし、たくさんの本もあるけどコケに関する本はあまりない。この本は従来あまり注目されてこなかった苔の分かりやすい入門書である。

生物学の教科書では、陸上の植物は、被子植物裸子植物、シダ、苔の4種類あるとある。しかし、実は一般的にコケと呼ばれている植物には、蘚類、苔類、ツノゴケ類の3種類あって、それぞれは生物学的に言うと全く別の分類に属しているのである。これらの3つは、胞子で増える、配偶体世代が優占している、根がないなど特徴が非常に似ているが、最近の分子系統額的な研究によると全く別の分類群に属するそうだ。ちなみに、蘚類の代表選手はふわふわした杉常の葉(のようなもの)が特徴的なスギゴケで、苔類の代表選手はぶよぶよで平べったいゼニゴケである。

まず、苔の最大の特徴は、配偶体世代が優占していることである。一般に、植物では、胞子体世代と配偶体世代の二つの世代が循環している。胞子体世代とは、染色体数が2倍体の世代であり、普通の種子植物裸子植物の本体がそうである。一方、配偶体世代は、染色体が半数対の世代で、胞子、或いは、卵子精子(花粉)の世代である。実はわれわれが見ている苔と言うのは、染色体が半数の配偶体世代で、胞子体世代は、受精が行われた後、胞子嚢をつくるだけである。

他にも苔には面白い性質がある。まず、乾燥に強いことがある。普通の植物は硬いクチクラ層の鎧で水分が蒸発するのを防いでいるが、苔にはそうした鎧がないので、乾燥するとすぐに干からびてしまう。ところが、苔の面白いところは乾燥しても死なない。からからのまま、数ヶ月くらい放っておいても水をやるとすぐに復活する。

また、苔を食べる動物と言うのはあまりいない。これは苔は体内に有害な物質を生成するためで、これのせいで苔はまずく、虫や動物のご馳走にはならないのだ。また、抗菌物質も作っているので、カビにやられることもない。