語学と文学の間

大野 晋 著
岩波現代文庫

国語学者大野晋氏の7つの論文を集めた論文集。大野さんの本は何年も前に数冊読んでいらい久しぶりである。

1.「語学と文学の間」
上代特殊仮名遣いを初めに発見したのは、いわずと知れた本居宣長である。一方、本居宣長源氏物語の研究でも有名で注釈を残している。本居宣長は、源氏物語は男と女の恋の感情を書いたものだと考えていた。我々、現代人にとってはそんなことは当たり前のことだし、何も特筆することではないと思っている。しかし、宣長の生きた江戸時代はそうではなかった。当時の社会では、色恋などということは武士や学者がまじめに取り組むものではないと思われており、源氏物語を読む際にも儒教や仏教の書を持って源氏物語と言う作品をあれこれ論評する人が多かったのである。

そういった中で、どうして本居宣長だけが、源氏物語を恋の物語であると正しく認識できたのであろうか?大野晋氏は、当時の武士や学者と違い、本居宣長源氏物語の本質が理解できたのは、自分自身が恋に苦しんだ経験があったからではないかと『推理』する。本論文は、学術的な論文と言うよりも推理小説のような感じがするが、読み応えがある。詳しくは本書を読んでください。

2.モノとは何か
本論文では、「ものがたり」「もののあはれ」の意味についての考えを述べている。

3.日本人の思考と日本語
日本語の文法的な特質と、日本人の考え方の関係について考察してある。

4.日本人の思考と述語様式
日本語の助動詞の配列順序、及び、動詞の活用形の起源について、上代特殊仮名遣いの研究を元にして考察する。

5.『万葉集』巻第十八の本文について
万葉集の巻十八の特殊な仮名遣いについて考察している。

6.仮名の発達と文学史との交渉
万葉仮名の発音は、同じ字でも時代によって発音が違っていた。それは、そのときの中国文明の中心地の発音が用いられたためであって、呉音と漢音の違いも中国語の発音に起源がある。それについての話。

7.仮名遣の起源について
藤原定家によって体系化された定家仮名遣についての考察。